大橋巨泉のショートエッセイ - 巨泉の本物を見る

ブリューゲルだけではない! ウイーン美術史美術館

第3回は本道を行く。オーストリアの首都ウイーンも、西洋絵画的には最重要の都市です。何と言ってもベルヴェデーレ宮殿があり、そこには「接吻」をはじめ、クリムトの作品が網羅されています。近年出来たレオポルド美術館も、シーレの傑作が沢山あります。しかしひとつと言われたら、この美術史美術館でしょう。中心地から歩いても行けるし、やはりここを訪れるべきです。

何をおいてもピーテル・ブリューゲル(父)が見られます。代表作「雪中の狩人」の前からは、最低15分は離れられません。不漁の漁師の一団が帰宅の途中です。犬もやせています。ところが左端のレストランでは火が焚かれ、おいしそうな肉の匂いが漂って来そうです。思わず漁師に同情したくなりますが、枯木を飛び立った鳥(とんび?)につられて中景に目を移すと、氷った湖で遊んでいる人々が居ます。更に遠景には村落があり、尖った雪山も見えます(オランダにこんな高い山はないのですが、ブリューゲルはイタリア旅行でアルプスを越えているので、写生したのでしょう)。何回見ても飽きない傑作ですが、他にも「農民の踊り」や「結婚式」なども見られます。

同じオランダでも、17世紀の風俗画も必見です。フェルメールは「画家のアトリエ」、デ・ホーホの「子供に乳を与える女」、ステーンの「逆さまの世界」はそれぞれ代表作のひとつです。デ・ホーホの遠近法の見事さが光ります。

イタリア・ルネサンスの名作も多いのは、さすがハプスブルグ王国の力でしょう。ジョルジョーネやティツィアーノの珍しいヌード画(神話画でない)もありますし、ラファエロの「草原の聖母」、ティントレットの「スザンナの水浴」など、代表先も見られます。ただボクのおすすめは、コレッジョの「イオ」です。万能の神ゼウスが、雲に変身して美女イオと交わるシーンですが、その官能性と表現力は必見です。ともに小部屋にあるので見逃しがちですが、カラッチの「キリストとサマリアの女」も大好きな絵です。

比べるとイギリスとフランスの絵画は少ないです。それに絵だけでなく、紋章、家具、彫刻、工芸品も見逃せません。チェルニーニの「塩入れ」など、国宝級です。最後に正面から入って、階段を上るときに注意してください。階段の欄間などの装飾は、クリムトの作です。まず美しさに酔ってください。

⇒美術史美術館

大橋巨泉

大橋巨泉プロフィール
本名・大橋克巳。早稲田大学政治経済学部新聞学科中退。ジャズ評論家、テレビ構成作家を経て、テレビタレントに転身。『11PM』、『クイズダービー』、『世界まるごとHOWマッチ』などヒット番組を数多く手がけた。1990年。セミリタイヤを宣言し、日本、カナダ、ニュージーランドなどに家を持ち、季節ごとに住み分ける「ひまわり生活」を送る。主な著作に、『巨泉―人生の選択』、『パリ・マドリード二都物語 名画とグルメとワインの旅』、『巨泉流 成功!海外ステイ術』(講談社)、大橋巨泉の美術鑑賞ノート1『大橋巨泉の超シロウト的美術鑑賞ノート』、同2『目からウロコの絵画の見かた』、同3『誰も知らなかった絵画の見かた』、同4『印象派 こんな見かたがあったのか』(ダイヤモンド社)などがある。

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