大橋巨泉のショートエッセイ - 巨泉の本物を見る
ダヴィンチもあるドイツの名館、アルテ・ピナコテーク
ドイツといえば、首都ベルリンをはじめ、ハンブルグ、フランクフルト、ドレスデンなど、すぐれた絵画館、美術館をもつ都市は多い。しかしボクはあえて「ボクのお気に入り美術館ベスト5」に、南独バイエルンの首都ミュンヘンを選びました。理由はこの街には芸術地区があり、地下鉄で簡単に行ける。取り上げたアルト(旧)の他に、ノイエ(新)、更に近年出来たモダン・ピナコテーク(絵画館)が同じ所に建っています。従ってここに行けば、中世から現代までのすべての絵画を鑑賞できるのです。
何といってもドイツ・ルネサンスが見られます。特に巨匠デューラーの「1500年の自画像」が見ものです。こうした真正面を向いた肖像画というのは、本来イコンのようなキリスト像に限られていました。つまりキリスト生誕1500年という年に合わせ、自らをキリストになぞられたともいえます。自信に溢れた表情と、ドイツ特有の細密画法は見ものです。細密といえば、デューラーと並ぶアルトドルファーの「イッソスの戦い」をはじめとする大作は、15~16世紀の北方ルネッサンスの本質を教えてくれます。
ところが本家イタリアのルネサンスも見逃せません。売りものはダヴィンチの「聖母子」でしょう。モナリザと同様の背景に注目して下さい。スフマートを駆使した技法で、巨匠の世界観がうかがえます。ラファエロの「垂幕の聖母」は若いころの伏し目がちから、最高作「小椅子の聖母」に近づいた重要な作品で、人物で画面の大部分を占めるという、新しいアイデアです。フィリッポ・リッピの「聖母子」のモデルは、破戒の相手、16歳の尼僧ルクレティアです。あの豪華なティツィアーノの晩年、深く沈潜した表現の「荊冠のキリスト」も、ここにあります。
17世紀のオランダ風俗画も沢山あります。フェルメールこそありませんが、隠れた名手、ブラウエルの傑作が見られます。ルーベンスの「レウッキポスの娘たちの掠奪」は、バロック絵画を語るとき、必ず引合いに出される作品です。意外なことに、スペイン絵画も見られ、特にムリーリョの「少年画」に良いものがあります。フランスは、ロココが中心です。ブーシェやフラゴナールの、エロティックな作品は目を惹きます。
最後に大きな美術館ですから、かなり歩きます。疲れたらここのカフェでひと休みがおすすめです。ノイエもすばらしい絵画館ですが、いつか語る時が来るでしょう。
⇒アルテ・ピナコテーク
アルテ・ピアコテークは2014年から17年まで改装工事のため、一部展示が見られません。