大橋巨泉のショートエッセイ - 巨泉の本物を見る

「夜のカフェテラス」はここクレラー・ミュラー美術館に!

世界中の一流の美術館の中で、最も交通の便の悪いロケーションにあります。普通オランダ・アムステルダムから行くのですが、汽車でアぺルドールンまで行って、バスに乗り換えるのだが、2時間以上かかる。それでもボクは3回も訪れました。また機会があれば行きたいと思う程、すばらしい美術館です。

まず何と言っても、ゴッホの最高傑作が複数見られることです。富豪夫人とは言え、クレラーミュラー夫人の先見性は凄い。まだ今日のような人気のなかったゴッホを高く評価し、作品を買い集めたのです。何と250点以上のコレクションだそうです。ナンバーワンはやはり「夜のカフェテラス」でしょう。黄色と青という補色を用い、パリを離れてアルルで芸術に浸れる喜びを表現した名作です。尚右側の建物も黒く見えますが、これも濃い青で、黒色は使われていません。

ゴッホの心を弾ませたアルルの明るさと、故郷オランダへの郷愁を表出した「アルルのはね橋」も傑作ですし、ゴッホを見るだけでも遠くまで出かける価値があります。

ところがこの美術館は、ゴッホだけではないのです。ここでしか見られない、その画家の代表作が、まだあるのです。象徴主義の巨匠ルドンの「キュクロプス」です。ひとつ眼の巨人キュクロプスは、ニンフ(妖精)のガラティアに恋しています。いろいろな画家がとりあげたテーマですが、ルドン作が傑出しています。山肌に寝ているニンフに気付いたのか、その山からヌッと顔を出す巨人。そのひとつ眼に宿るユーモアとペーソスは、ルドンならではのものです。実はこの美術館は、夫人の遺志で、作品を各国に貸し出すので有名です。独占せず、一人でも多くの愛好家に見てもらおうというのです。ボクは3回行っても見られず、不運を呪っていました。ところがその夏カナダの新聞に、シアトルで「クレラーミュラー展」の広告が載っていました。早速車で駆けつけ、夢を果たしたのです。

その他、スーラの点描主義の代表作のひとつ「シャユ踊り」、同じくシニャックの「朝食」もここで見られます。ピカソが実はロートレックの強い影響を受けた事は、知る人ぞ知るですが、それはここにある「マドリードの女」を見れば一目瞭然です。ゴッホのコレクションで有名になりましたが、ここにはクラナハのようなルネサンスから、デ・キリコやモンドリアンのように現代画家まで、多様な作品をもっています。どんなに不便でも、一度は訪れたい名館と思います。

⇒クレラー・ミュラー美術館

大橋巨泉

大橋巨泉プロフィール
本名・大橋克巳。早稲田大学政治経済学部新聞学科中退。ジャズ評論家、テレビ構成作家を経て、テレビタレントに転身。『11PM』、『クイズダービー』、『世界まるごとHOWマッチ』などヒット番組を数多く手がけた。1990年。セミリタイヤを宣言し、日本、カナダ、ニュージーランドなどに家を持ち、季節ごとに住み分ける「ひまわり生活」を送る。主な著作に、『巨泉―人生の選択』、『パリ・マドリード二都物語 名画とグルメとワインの旅』、『巨泉流 成功!海外ステイ術』(講談社)、大橋巨泉の美術鑑賞ノート1『大橋巨泉の超シロウト的美術鑑賞ノート』、同2『目からウロコの絵画の見かた』、同3『誰も知らなかった絵画の見かた』、同4『印象派 こんな見かたがあったのか』(ダイヤモンド社)などがある。

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