大橋巨泉のショートエッセイ - 巨泉の本物を見る

マティスの「金魚」のあるプーシキン美術館(モスクワ)

ロシアで最高の美術館といえば、問題なくエルミタージュであります。サンクト・ペテルブルグには是非行って欲しいと思います。しかしこうした大美術館は、このシリーズではあえて避けて来ました。理由は余りにも作品が多く、それらをカバーするには、紙数が足りないのです。とはいえこのプーシキン美術館は、エルミタージュと比べてもそれ程遜色はありません。第一モスクワにあるため、日本からの直行便が毎日あります。

たしかにエルミタージュの「マティスの部屋」で味わう、至福の時には及ばないかも知れません。しかしここにある「金魚」の前に10分以上立ってみて下さい。デビュー当時、その激しい色彩使いに「野獣派(フォービスム)」と呼ばれたマティスが、数年後にもうひとつ上の世界に達した記念すべき作品です。おそらくアトリエの一隅にあった、当時流行の金魚を描いたのでしょう。後年にくらべると、それ程記号化されていませんが、対象は平面化され、かなり装飾的になっています。それでいて金魚や花や葉の息が触れて来そうです。そして何ともいえない安穏な気持にしてくれます。これこそ彼の言う「居心地の良い肘かけ椅子」に座った状態なのです。

ピカソの初期の傑作「ボールの上の少女」もいいですね。いわゆる青の時代ですが、この細い少女のポーズは、天才にしか描けません。ゴッホの「赤いぶどう畑」も見逃さないで下さい。これこそゴッホの生前売れた唯一の絵なのです。南仏アルル行きを、親友のロートレックにすすめられたゴッホは、その明るさに驚喜しました。この作品には、その喜びが溢れています。モネ、ルノワール、ドガなど印象派の作品も揃っています。ボクの趣味ではありませんが、ゴーギャンやアンリ・ルソーの作品もあり、特にゴーギャンの「アルルのカフェにて」は、ゴッホとの競作の意味で興味深いです。タヒチへ行く前のゴーギャンは良い!?

18世紀以前の作品も結構あります。フラゴナールと並ぶロココの巨匠ブーシェの「ユピテルとカリスト」のエロティシズムは凄い。万能の神ゼウスが、何と狩の女神ディアナに変身して、美少女カリストに迫るシーンです。ですからこれはレズビアンの絵ではないのですが、妙な倒錯感があります。尚ゼウスの本性は後ろの鷲を見つけて下さい。逆に新しい所ではムンクの「白夜」が面白い。「叫び」と比べて見て下さい。

⇒プーシキン美術館

大橋巨泉

大橋巨泉プロフィール
本名・大橋克巳。早稲田大学政治経済学部新聞学科中退。ジャズ評論家、テレビ構成作家を経て、テレビタレントに転身。『11PM』、『クイズダービー』、『世界まるごとHOWマッチ』などヒット番組を数多く手がけた。1990年。セミリタイヤを宣言し、日本、カナダ、ニュージーランドなどに家を持ち、季節ごとに住み分ける「ひまわり生活」を送る。主な著作に、『巨泉―人生の選択』、『パリ・マドリード二都物語 名画とグルメとワインの旅』、『巨泉流 成功!海外ステイ術』(講談社)、大橋巨泉の美術鑑賞ノート1『大橋巨泉の超シロウト的美術鑑賞ノート』、同2『目からウロコの絵画の見かた』、同3『誰も知らなかった絵画の見かた』、同4『印象派 こんな見かたがあったのか』(ダイヤモンド社)などがある。

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