大橋巨泉のショートエッセイ - 巨泉の本物を見る
幅広いコレクションの、ベルギー王立美術館
ベルギーはボクの好きな国のひとつです。もう何回も訪れていますが、理由は多様な文化に触れることが出来ることと、食べものがおいしい事です。多様というのは、オランダ的な北部と、フランスの影響が強い南部では全く違います。食べものがおいしいのはフランスに近いからで、近年ではオランダに行くにも、宿泊はブリュッセルで、電車で往復することもあります。
美術的にも見逃せない所は沢山ありますが、ひとつをというならやはり、この王立美術館でしょう。理由はここへ行けば、ルネサンスから近代美術まで、非常に幅の広いコレクションを誇っているからです。上階の方は古典中心で、地下へ下ると新らしい美術が見られるようになっています。
古典の方では北方ルネサンスの創始者の一人、ロベール・カンパンの「受胎告知」が重要です。ダヴィンチやボッティチェリの同テーマと比べるとよく解ります。カンパンのそれは背景が、ベルギー(フランドル)の一般的家庭になっています。これはのちのフェルメールに通じる伝統ですね。ブリューゲル(父)の「イカロスの墜落」もここにあります。太陽に近づきすぎて蝋が溶けて海中に墜落するギリシャ神話がテーマですが、いかにもブリューゲルらしい描き方が面白い。周りの人々は全く関心を示さず、日常の生活を続けている事です。
新らしい方では、印象派も見られますが、やはりベルギーの生んだマグリットが注目されます。いわゆるシュールリアリズムですが、この人の画には独特のユーモアがあり、思わず微笑んでしまう作品もあります。傑作は「光の帝国」でしょう。空は真昼の青空なのに、地上では街灯の光が支配している。この「あり得ない」絵の前でしばらく見つめていると、色々な事を考えてしまいます。何よりもポエジーを感じます。
同じベルギー人のデルボーの作品も多いですが、同工異曲が多くマグリットには及びません。この人はいわゆるマザコンで、異様に濃い陰毛の描写は、母への怖れでしょうか。ボクはクノップフの方が謎めいていて、面白いと思います。
ボナール、マティス、ダリなどの作品も見られ、ゴーギャンの「緑のキリスト」は、ポンタヴェン時代の代表作のひとつです。最後に、時間に余裕があれば、電車でヘントまで行き、聖バーフ大聖堂の祭壇画を見てください。エイク兄弟の名作で、北方ルネサンスここに始まれり、です。