大橋巨泉のショートエッセイ - 巨泉の本物を見る

マティスの傑作が見られるコペンハーゲン国立美術館

さてこのショート・エッセイのシリーズも10回目、最終回になりました。随分悩みましたが、やはりひとつの都市でひとつづつ選んで来たので、重複は避けたく、北欧に決めました。

北欧(スカンジナビア)3国には、それぞれ優れた美術館がありますが、たった1枚の絵が、ボクをデンマークの首都コペンハーゲンにさせました。それはアンリ・マティスの「マティス夫人(緑の筋のある女性)」でコペンハーゲンの国立美術館にあります。コペンハーゲンは港町として栄えたところですから、街の中心地は今でも海に近い辺りです。ですからこの美術館は、中心地からはかなり離れていて、歩くと30分近くかかります。でも美しい町ですから、気候が良い時なら散歩がてら歩いて行けます。

マティスの傑作は最上階(3階)にあります。前回紹介したティッセンとは逆に、ここは上階ほど現代に近い絵が並んでいます。さてこの作品はそれ程大きな絵ではありませんが、一度見たら絶対に忘れられません。何しろ女性の顔のまん中、つまり鼻の線に沿って、見事に緑色の筋が通っているのです。ある夫人に質問されたマティスの言葉が有名です。「私だってこんな顔を街で見たら仰天しますよ。でもこれは絵なんですよ、奥さん」。

そうマティスは、絵とは対象物の“再現”ではなく、画家のフィクションだと宣言したのです。ピカソのキュビズムが「形態のデフォルメ」だとすれば、マティスらのフォーヴィズムは、まさに「色彩によるデフォルメ」とも言えるでしょう。これはマティス35歳の、いわば初期に属する作品ですが、その斬新性と強烈な表現力は、永久に不滅です。

これを見るだけでも行く価値のある美術館ですが、他にもみものは多くあります。同じマティスの「豪奢Ⅱ」は、のちの「対象の記号化」へのスタートとも言える作品ですし、ドランの「下着姿の女性」は、フォーヴィズムの中で、彼がマティスにつぐ存在だったことを示す作品です。

またここにはルネサンス以降の古典的絵画も納められています。マンテーニャの「天使に支えられるキリスト」は、この人の力量を表わした力強い表現ですし、クラナハの「メランコリー」は、ブリューゲルと共通する北方ルネサンスの倫理観があります。最後にデンマークを代表する画家、ハンマースホイの作品も見られます。“誰も部屋に居ない絵”ですから、すぐに解ります。

これでこのシリーズは終りますが、何か御希望があれば、どうぞリクエストをお寄せください。

大橋巨泉

大橋巨泉プロフィール
本名・大橋克巳。早稲田大学政治経済学部新聞学科中退。ジャズ評論家、テレビ構成作家を経て、テレビタレントに転身。『11PM』、『クイズダービー』、『世界まるごとHOWマッチ』などヒット番組を数多く手がけた。1990年。セミリタイヤを宣言し、日本、カナダ、ニュージーランドなどに家を持ち、季節ごとに住み分ける「ひまわり生活」を送る。主な著作に、『巨泉―人生の選択』、『パリ・マドリード二都物語 名画とグルメとワインの旅』、『巨泉流 成功!海外ステイ術』(講談社)、大橋巨泉の美術鑑賞ノート1『大橋巨泉の超シロウト的美術鑑賞ノート』、同2『目からウロコの絵画の見かた』、同3『誰も知らなかった絵画の見かた』、同4『印象派 こんな見かたがあったのか』(ダイヤモンド社)などがある。

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