大橋巨泉のショートエッセイ - 巨泉の本物を見る
ロンドンに行く機会があったら
西洋美術を見たかったら、という質問には普通パリという答が浮かぶと思う。やはりルーヴル、オルセー、ポンピドゥー・センターの三大美術館の存在が大きい。しかしボクに言わせれば、ロンドンも負けず劣らずという所である。理由は一にも二にも、ナショナル・ギャラリーの存在なのだ。ルーヴルには19世紀後半以降の美術は無い。要するに印象派を見たければ、河を渡ってオルセーまで行かなければならない。極端に言えば、2日間以上滞在する必要がある。しかし、ロンドンのナショナル・ギャラリーに行けば、ダヴィンチからゴッホまで一遍に見られる。
ところが多くの人が、ナショナル・ギャラリー(以下NG)と、大英博物館(ブリティッシュ・ミュージアム)を混同している。勿論後者にも、多くの素描(スケッチ)や版画があり、中には貴重なコレクションもある。しかしここは基本的に博物館であり(そういう意味だとルーヴルもそうである)、やはり見ものは世界各地から集めた(ぶんどった!?)出土品などであろう。対してNGは、純然たる美術館である。
場所は簡単、有名なトラファルガー広場に面して堂々と立っている。地下鉄でも行けるし(チャリングクロス駅)、タクシーでも安い。入場は無料(寄付金箱が常設されていて、ボクらはいつでも2ポンド程入れる)で、もっと良いのが年中無休(1月1日と、クリスマス休日を除く)であること。これはツアーに入って外国旅行に出かけることの多い日本人には大きなプラスで、これだけでもパリより上位だと思う。
所蔵作品は書き切れない程、代表作や名作が多い。これは他の有名美術館と違い、(王様や貴族のコレクションではなく)専門家の蒐集で始まったからであろう。到底書き切れないので、各ジャンル(年代別)から、1作ずつ選んで見る。ルネサンスからはヤン・ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻」。バロックではやはりベラスケスの「鏡を見るヴィーナス」か。巨匠唯一のヌードである。それとクロード・ロランと彼を尊敬していた英国の至宝ターナーの作品が2枚ずつ、ひとつの部屋に飾ってあるのが素晴らしい。英国といえば「父」ホガースの「当世結婚アラモード」もここで見られる。ゲインズバラの「アンドリュース夫妻」、カンスタブルの「乾草車」と、代表作はみなここ。ルノワールの「雨傘」、スーラの「アニエールの水浴」から、ゴッホの「ひまわり」まで全部見られる。
そしてロンドンにはまだまだ優れた美術館があるのだが、それは次の機会に。