大橋巨泉のショートエッセイ - 巨泉の本物を見る
ラファエロの宝庫、パラティーナ美術館
今回からは新趣向で、「ボクのお気に入り美術館ベスト5」を連載します。これは必ずしも「総合点」でのランキングではありません。あくまでも筆者のお気に入りということです。一応国別に選びました。
まずはパラティーナ美術館をあげます。イタリアはフィレンツェにあります。えっ?ウフィッツィじゃないの?という声が聞こえて来そうです。勿論質・量ともにウフィッツィがトップです。ただウフィッツィは、予約が必要で、急に訪れても入れません。その上いつも混んでいて、群衆とともに行動、となります。その点ここは予約不要ですし、全く混んでいませんので、行ったり来たりも出来ます。その上フィレンツェの中心地から、アルノ河(ヴェッキオ橋)を渡って歩いてゆくのが楽しい。昔は皮職人が店を開いていたそうだが、今は宝石店の並ぶ橋を渡って10分程で、ピッティ宮殿につきます。この宮殿の中にあるのがパラティーナ美術館です。したがって美術だけでなく、15、16世紀の貴族の館が見られるのもここの特徴なのです。
コレクションの中心は勿論ルネサンス期のものですが、特に充実しているのが、天才ラファエロの作品です。多くの聖母子像の中でも、一と言って二と下らない「小椅子の聖母」と「大公の聖母」は、ともにここで見られるのです。この二作品の間には約11年のタイムラグがあるのですが、22歳と33歳の違いは歴然としています。「大公」の方は、伏し目がちの敬虔なマリア、一方の「小椅子」は、しっかりカメラ目線で、挑むような感じさえします。この二作を比べて見られる(行ったり来たりと書いたユエンです)だけでも、この美術館の価値があります。
ラファエロ以外でも名作が見られます。まずフィリッポ・リッピの「聖母子と聖アンナの生涯」。マリアのモデルはリッピの若妻ルクレチアです。ティツィアーノも揃っていますが、何と言っても「マグダラのマリア」が見逃せません。バロックに大きな影響を与えた官能美は、釘づけにされます。ラファエロの後継者ともいうべき、デル・サルトも沢山あります。独創性には欠けますが、アングルに影響した絵の巧さは格別です。ジョルジョーネやカラヴァッジョもありますが、意外なことにルーベンスもあるのです。時間のある方は、王室や陶器館、更に近代美術館も見られますが、ボクはむしろ、パラティーナを行ったり来たりする事をすすめます。